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ドラムの申し子 [ROCK]

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フーファイターズのドラマー、テイラーホーキンスが亡くなった。
フーファイのドキュメントビデオ<back and forth>を観ると、テイラーが加入する前後のことが詳細に語られているのだが、唯一無比の<あの>ニルヴァーナのドラマーだった男がフロントでヴォーカルとギターをやっているバンドでドラムを叩くという凄まじいプレッシャーに、そのドラミングで完璧に答えたテイラーの素晴らしさがよくわかる。
デイヴグロールは、あのキャラクターから<いい人>と思われがちだけど、音楽に対しては非常にシビアでクールだ。フーファイのセカンドで、すでに録音されていたドラムパートを一曲を除いて自分のドラムで再録音し、そのドラマー、ウイリアムには<ライヴでは叩いてほしい。>と言い放った男だ。あの満面の笑顔からは想像もできない。ウイリアムがその申し出を断って脱退したのは当たり前のことだ。

テイラーホーキンス初参加の<There is Nothing Left to Lose>。リードギターも抜けて期せずしてトリオになってしまったフーファイが、そのアルバムタイトル通り、<失うものは何もない>との覚悟で作り上げた真の意味でのフーファイのファーストアルバムとすら言える名盤だ。一曲目の<Stacked Actors>のイントロを聴いた瞬間、俺はこのアルバムの成功を確信したのを覚えている。ニルヴァーナ信者である俺がこじつけるならば、ニルヴァーナと同じトリオになったフーファイ、デイヴが自分と同じ、あるいはその上をいくドラマーを発見した瞬間というのは、カートがデイヴを発見した瞬間と同じだったのだ。

よくないな。ニルヴァーナ信者は、フーファイにそれを重ねてしまうんだ。

テイラーホーキンスの名演はフーファイの名盤群とともに永遠に生き続けるのだが、それにしても悲しすぎないか。彼の体内から検出された10種類の薬剤。オピオイド、という名前に俺はプリンスの悪夢を思い出した。音楽を表現するために彼らは体の尋常ではない痛みと戦い、強力な鎮痛剤を使用する。それには処方する医師にも重大な責任が伴うのだ。アメリカ。そこを今一度、考えてほしい。


テイラーホーキンス。デイヴグロールに負けずとも劣らないあの笑顔に。

R.I.P.